伏見IVF乳腺うえだクリニック

不妊症と原因について2025.08.28

伏見IVF乳腺うえだクリニックの院長の上田匡です。
当院は、2026年5月より京都市伏見区の丹波橋駅近くで開院予定の、不妊治療・婦人科・乳がん検診のクリニックです。
今回は、不妊症とその原因についてわかりやすくお話します。実際の治療については、追ってコラムにてお伝えします。


 

不妊症の定義と頻度

不妊(症)とは、簡単にいえば『妊娠を希望した男女が、1年間妊娠しない状態』です。

2021年の厚生労働省の発表になりますが、不妊を心配したことがある夫婦は2.6組に1組、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は4.4組に1組と、不妊症は身近な存在といえます1)

不妊症の定義は1年とお伝えしましたが、後述する原因が隠れている場合があるので、妊娠を希望されたら一度不妊クリニックの受診を強くお勧めします。

 


不妊症の原因

WHOの報告では2)、男性と女性の両方に原因を認めるものが35%、男性のみが8%、女性のみが37%、原因不明が5%、調査中の妊娠が15%とされています(図1)。こういったデータから、不妊に悩むカップルの約半数は男性にも原因があると言われています。

 

 

男性因子

男性側の不妊の原因としては、精索静脈瘤など精子の数や質の低下する造精機能障害、心理的プレッシャーから生じる勃起障害や射精障害をあわせた性機能障害、精子がつくられているのに精液中に精子がでてこない精路通過障害があります。
これらは、精子が回収できれば体外受精や顕微授精を行うことで妊娠に至る場合があります。一方で、タイミング療法や人工授精など一般不妊治療で妊娠を希望される場合、TESE(精巣内精子採取術)が必要な場合は泌尿器科へご紹介します。

 

女性因子

今回のブログでは、女性因子についてわかりやすくご説明いたします。
原因としては、排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管因子、免疫因子、遺伝因子、合併症、原因不明不妊などがあります。
 

  • (1)排卵因子

    女性は多くの場合、月に1回排卵することで月に1回月経がきます。しかし、なんらかの理由で排卵しないと、月経も不順となり妊娠も難しくなります。
    例えば、多嚢胞性卵巣症候群であれば、排卵までの期間が30日~180日~全く排卵しないなど排卵までの期間がバラバラで、タイミングを合わせることが困難となります。
    体重減少性無月経であれば、大きな体重減少を原因として脳が飢餓状態であると判断し、排卵を止めます(無月経となります)。
    早発卵巣不全は、卵巣に残った卵子の数が著しく低下した状態で、20歳~30歳にも関わらず排卵がとまり無月経となります。

  • (2)卵管因子

    卵管は卵子・精子・受精卵が通過する非常に大事な場所です、ここが完全に詰まったり(閉塞)癒着で細くなる(狭窄)と妊娠し辛くなります。
    クラミジア感染症で卵管が癒着した場合、卵管妊娠などの理由で卵管を切除した場合、子宮内膜症で卵管周囲が癒着した場合などが含まれます。

  • (3)子宮因子

    受精卵は卵管を通り子宮内腔に入ってきて、子宮の内膜に着床します。この内腔や内膜が、何らかの原因で変形したり薄くなると妊娠し辛くなります。
    粘膜下筋腫は、子宮内腔を変形させることで着床をしにくくさせます。最近耳にする帝王切開瘢痕部症候群では、子宮の帝王切開の傷口から浸出液が出て、着床を邪魔します。過去の子宮内腔の手術により、子宮内膜が薄くなった場合なども、ここに相当します。

  • (4)頸管因子

    子宮頸管は、子宮腔内への細菌などの異物をブロックしています。この防御機構が通常と変わってしまうと、不妊に繋がる場合があります。
    例えば、抗精子抗体をもつ女性では、精子が子宮頸管を通過できず不妊に至ります。子宮頸部円錐切除術の後で不妊となる場合もここに分類されます。

  • (5)免疫因子

    母体にとって、受精卵(児)は半分夫の免疫情報をもった異物であり、妊娠とは半同種移植片(semi-allograft)の状態といえますが、通常の妊娠では母体に拒絶反応など生じません(本当に妊娠は神秘です)。通常、他者から臓器を移植する場合(他家移植片、allograft)、ステロイドなどの免疫抑制剤を使用して、拒絶反応を抑えます。つまり妊娠では、さまざまな免疫機構において免疫寛容が自然に発生し、妊娠を維持していると考えられます。免疫因子は、こういった受精卵への免疫が強く働いて不妊になる状態です。
    頸管因子にあった抗精子抗体も免疫因子のひとつと考えられます。また、抗セントロメア抗体であれば、受精障害や受精卵の発育不良が生じます。また、免疫因子は不育症にも深く関わっていることが知られていますが、話し出すと長くなるので割愛します。

  • (6)遺伝因子

    2025年の時点で一般的ではありませんが、不妊症の原因となる遺伝子変異の報告が世界および日本国内でも増えてきています。前に勤めていたクリニックでの経験になりますが、TUBB8といった遺伝子に変異を認めた症例で重度の卵子成熟障害を認めました(福田愛作ら、第76回日本産科婦人科学会学術講演会、日本語ポスター25)。検査も一般臨床で行われておらず、調べようもないのですがこういった原因も存在します。

  • (7)合併症

    子宮や卵巣に全く関係のない病気であっても、妊娠が阻害されることがあります。
    甲状腺機能低下症は、不妊症の方によく認められるため、多くのクリニックでTSHを初期検査にいれています。活動期の膠原病やコントロールされていない糖尿病などは、妊娠率を低下させます。これらは基礎疾患とよばれ、基本的には専門の内科を受診し、妊娠許可が出てから不妊治療を開始します。

  • (8)原因不明不妊

    (1)~(7)に当てはまらず、原因がわからないものがここに含まれます。ただし、原因はあっても、現時点では知識も検査もおいついておらずここに分類されるものもあります(遺伝因子などはその最たる例です)。また、妊娠は年齢により妊娠率が低下しますが、年齢による不妊もここに含まれます。
    不妊症は原因がわからなければ治療ができないわけではなく、人工授精や体外受精を行うことで原因は不明であっても妊娠する場合があります。

 

遺伝因子を除いた上記の原因を調べる検査がいわゆる初期検査と呼ばれるものになります。

 

大事なポイント

  1. 不妊症は年齢などの条件により大きく状況が変わるため、定義の項目でお伝えした1年間にとらわれず妊娠を希望された場合、まずは不妊治療専門のクリニックにご相談ください。精査のうえ、妊孕性(妊娠する能力)に余裕があれば、お二人でタイミングをとってもらうのも選択肢となります。
  2. 男性側が原因である場合もあるので、男性側もしっかり検査を行いましょう。子育てもそうですが、不妊治療もお二人で行うものです。
  3. 原因は多岐に渡るため、自分の原因以外は覚える必要はありません。

 

不妊治療は、誰かの言葉にあったように『いつやるか?今でしょ!』の精神が大事だと思っています。
このブログが誰かのためになれば幸いです。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

伏見IVF乳腺うえだクリニック
院長 不妊治療・婦人科 上田匡

 

1) 厚生労働省:不妊治療と仕事の両立について. https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/30.html
2) Recent advances in medically assisted conception. Report of a WHO Scientific Group. Vol 820, World Health Organization – Technical Report Serise 1992; 3

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