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伏見IVF乳腺うえだクリニックの院長の上田匡です。 当院は、2026年5月より京都市伏見区の丹波橋駅近くで開院予定の、不妊治療・婦人科・乳がん検診のクリニックです。 不妊症の治療を理解いただくために、今回はまず自然妊娠のしくみについてご説明いたします。 不妊治療を受けられるうえで、知識があることで少し不安が解消できるかもしれません。 解らないことがあれば、何なりとご質問下さい。 |
妊娠は非常に複雑なプロセスを必要としますが、簡単にまとめると以下のようになります。(図1)


卵巣では、原始卵胞⇒一次卵胞⇒二次卵胞(前胞状卵胞と胞状卵胞)⇒成熟卵胞(グラーフ卵胞)と卵胞が発育していきます1)。ざっくりいえば、月経中(月経2-5日目)に2-5mmの胞状卵胞(Antral Follicle)が存在し、これが月経周期と共に大きくなりグラーフ卵胞が20mmほどになれば排卵前の状態といえます。(図2)
余談ですが、不妊治療の医師はよく月経中(月経2-5日目)の胞状卵胞のカウントを行っており、これは胞状卵胞数(Antral Follicle Count)つまりAFCと呼ばれます。このAFCにより卵巣の状態を確認し、今周期に発育する卵胞の数を予想しています。また、AFCは卵巣予備能の予測にも用いられます。
性交渉により射精された精子は、腟内⇒子宮内⇒卵管と自走しながら受精能を獲得します。精子は外子宮口に到達したあとは、5分-30分で卵管に達するといった報告がみられます2,3)。また、精子の受精能は射精後72時間位とされ、卵子に比べて受精能を長く保っていられます4)。タイミング療法で、多少排卵と時期がずれていても妊娠できるのはこのためです。
余談ですが、男性はタイミング療法中にプレッシャーから勃起障害や射精障害を呈することが良くありますので、そういった事があってもあまり気にしないでください。
グラーフ卵胞が発育してくると、エストロゲンの血中濃度が上昇し、脳の下垂体からLHというホルモンが多量に放出されます。これをLHサージと呼び、開始から34-36時間で排卵がおこります(ピークの開始から10-12時間)。排卵すると、卵子は卵丘細胞・卵子複合体(Cumulus Oocyte Complex; COC、卵子と周りの細胞群)として卵巣より飛び出します。また、排卵後の卵胞では、黄体が形成され妊娠維持に必要な黄体ホルモンが産生されます。(図2)
余談ですが、排卵日は妊娠した際には妊娠2週0日にあたり、体外受精の際に使用される胚齢でいうと胚齢0日にあたります。胚盤胞は胚齢5日に移植され、移植日は妊娠した際には妊娠2週5日にあたります。
腹腔内に飛び出したCOCは、卵管采に捉えられ卵管膨大部に運ばれます。ここで、先ほどの精子と出会うのですが、卵子の寿命は精子に比べて短く12-24時間です。卵子は、卵管膨大部で複数の精子に囲まれますが、そのなかの精子1つが卵子に侵入し、その後は精子が侵入できなくなります。受精すると前核(Pronuclear; PN)が2つ確認でき、これを2PNと呼んでいます。
余談ですが、当院のロゴはこの2PNとピンクリボンをモチーフにしており、妊娠と乳がんの早期発見に対する願いを込めております。詳しくは『当院のロゴについて』をご参照下さい。
受精卵は細胞分裂を繰り返し、初期胚(胚齢2-3日)⇒桑実胚(胚齢4日)⇒胚盤胞(胚齢5-7日)と発育し、4-5日目に子宮内腔に到達します。
子宮に到達した胚盤胞は、子宮内膜上皮へ接着・侵入し、胚と母体血の交流が始まります。この現象を着床と呼びます。着床は子宮内膜が胚を受け入れ可能な時期に起こり、この時期は着床ウインドウ(Implantation Window)とよばれ胚齢7±2日とされています5)。
上記のいずれかのポイントに問題があれば不妊となります。
上記以外が原因であることもありますが、それらに対応していく治療が不妊治療になります。
最後に。妊娠判定に使用されるhCGというホルモンは、児の胎盤となる細胞(トロホブラスト)から産生されますが、母体からは一切産生されません。
では、なぜ母体血中ないし尿中から他者のホルモンであるhCGが検出されるのでしょうか。
それは、着床により母体血とトロホブラストが接することで、児のhCGが母体血中へ還流し、それを検出しているのです。
妊娠している母体は他者である児の内在した不思議な状態、つまり生物学的にキメラ(二つの生物がひとつになる)の状態といえます。
本当に妊娠って神秘的ですよね。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
伏見IVF乳腺うえだクリニック
院長 不妊治療・婦人科 上田匡
1) Gougeon A. Regulation of ovarian follicular development in primates: facts and hypotheses. Endocr Rev. 1996;17(2):121-55.
2) Rubenstein BB, Strauss H, Lazarus ML, Hankin H. Sperm survival in women; motile sperm in fundus and tubes of surgical cases. Fertil Steril. 1951;2(1):15-9.
3) Settlage DS, Motoshima M, Tredway DR. Sperm transport from the external cervical os to the fallopian tubes in women: a time and quantitation study. Fertil Steril. 1973;24(9):655-61.
4) https://gynecology-htu.jp/reproduction/dl/seishokuiryo_gl_1-3.pdf. 患者さんのための生殖医療ガイドライン Ⅲ. 精子の受精能獲得. 2022.
5) Bazer FW, Wu G, Spencer TE, Johnson GA, Burghardt RC, Bayless K. Novel pathways for implantation and establishment and maintenance of pregnancy in mammals. Mol Hum Reprod. 2010;16(3):135-52.