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こんにちは。伏見IVF乳腺うえだクリニックの乳腺外科医、上田知佳です。 当院は、2026年5月より丹波橋駅近くで開院予定としており、 伏見区だけなく京都市の南部や宇治市、京田辺周辺の皆様へも不妊治療・婦人科・乳がん検診を提供できればと考えております。 今回は、不妊治療と乳がん検診の関係を、最新のエビデンスや当院で行う予定の取り組みを交えながらご紹介致します。 妊娠を希望されている患者様が、安心して治療を続けていただくための参考になれば幸いです。 |
近年、日本では10人に1人が生殖補助医療(体外受精や顕微授精など)による出生とされており、不妊治療を受ける女性の割合は年々増えています。一般不妊治療も含めれば、かなりの割合の女性が妊活をしているといえます。
また、乳がんは日本人女性が最も多くかかるがんです。発症のピークは45歳~60歳代ですが、30代から徐々に増え始めるので、ちょうど妊娠を希望される年代と重なります。
妊娠し出産を無事に終えて、お子様と末永くご一緒にいて頂くために、不妊治療前の乳がん検診を当院では行っていきたいと考えています。その理由としては、下記になります。
妊娠中の乳がん検診には制限があります。患者様が妊娠されている場合、胎児への被爆のリスクを考慮して、放射線を用いるマンモグラフィ撮影は基本的には行えません。
ときおり石灰化や細かな構築の乱れのように超音波では認識しにくい乳がん所見が存在するので、30代でもマンモグラフィ検査を必要とする方がおられます。
また、癌が強く疑われた場合に行う追加検査にも、妊娠中には出来ない検査(造影MRI検査やステレオマンモトーム検査など)があります。
妊娠後期や産後においても、授乳の影響でマンモグラフィ検査や超音波検査にて、正常乳腺と病変のコントラストが付きにくく、病変を見つけるのが困難になります。
以上のように、妊娠中は乳がん検診が不十分になったり、妊娠中(特に後期)や授乳中は乳腺の発達のため精査を行っても病変を見つけることが難しくなります。
妊娠自体が乳がんのリスクにどう影響するかというと、基本的に妊娠・出産回数が多いほど、また授乳回数や授乳期間が長いほど、乳がんの発症リスクは低下します。(共に乳がん診療ガイドライン2022年版参照)
最近では、妊娠関連乳がん(妊娠中~産後1年以内の乳がん)と一般的な乳がんの予後は変わらないとされていますが、産後5年以内に生じた乳がんの予後は悪いといわれています1,2)。
これは、『妊娠・授乳を終えて乳腺が通常の状態に戻る間に乳がんリスクが一時的に上がる』ことや、『妊娠・授乳期間に乳がん検診が出来なかったことで進行した状況で乳がんが発見される』ことが理由として考えれています。
・妊娠中や産後は乳がんをみつけにくい
・産後1年~5年以内の乳がんは予後が悪い
以上の理由から、当院では不妊治療前に乳がん検診をおすすめしています。
不妊治療では、排卵誘発剤(クロミフェン、レトロゾール、ゴナドトロピンなど)や排卵抑制剤(ブセレリン、セトロレリクスなど)のような、ホルモン環境に影響を与える投薬を行います。
そのため、「不妊治療を受けると乳がん発症のリスクは上がりますか?」というご不安の声をよくいただきます。
結論からお伝えすると、不妊治療により乳がん発症のリスクが高まるといった明確な証拠はありません。
不妊治療に使用される薬剤を個別にみても使用により乳がんリスクが高まるという証拠はありません。また、乳がんになるリスクの高い遺伝子変異をもったグループにおいても、不妊治療により乳がんの増加を認めませんでした3,4)。
乳がん診療ガイドライン2022年版や2024年に発表されたASRMにガイドラインよると、基本的にはメタアナライシス(非常に論拠としての価値が高い論文)をもとに「生殖補助医療に関連する乳がんリスクの増加はみられない」と考えられています。
ただし、クロミフェンの長期使用(非常に長い投与)により乳がんリスクの増加を報告している論文などもあり、完全に「リスクがゼロである」と断言できないことも事実です。
まとめると、基本的には不妊治療による乳がん発症のリスクに対して過度に心配する必要はないと考えています。
不妊治療を開始していても、乳がん検診は可能です。
妊活や不妊治療のスケジュールにあわせ、月経後の排卵までの短期間、タイミングを取ってさえいなければ、マンモグラフィ撮影もしていただけます。
当院では、院内で産婦人科医師と相談の上、乳がん検診の時期を決めていただくことが出来ます。
9ヶ月の妊娠期間と半~1年ほど(個人差がありますが)の授乳期間は、乳がん検診が不十分になる恐れがありますが、
妊娠前に検診を受けておけば、妊娠中や授乳中に乳がんへの不安を大きく減らせるのではないのでしょうか。
不妊治療と乳がん検診は、女性の生涯において必要とする時期が一部被ります。
妊娠中は乳がん検診が行えず、産後は乳がんがみつかりにくい状況です。
産後1年~5年以内の乳がんは予後が悪いとされています。
ただし不妊治療中に乳がん発症のリスクが高まるといった明確な証拠はありません。
妊活中の方も、これから妊活を始めようかと考えていらっしゃる方も、
「今の自分の乳腺の状態を知る」ことは、安心して妊活を続ける為の第一歩です。
そして、妊娠中・授乳期・産後も、どんな時期でも気になる症状があれば、どうぞ遠慮なくご相談下さい。
伏見IVF乳腺うえだクリニック
乳腺外科 上田知佳
1) Park S, Lee JS, Yoon JS, Kim NH, Park S, Youn HJ, et al. The Risk Factors, Incidence and Prognosis of Postpartum Breast Cancer: A Nationwide Study by the SMARTSHIP Group. Front Oncol. 2022;12:889433.
2) Shao C, Yu Z, Xiao J, Liu L, Hong F, Zhang Y, et al. Prognosis of pregnancy-associated breast cancer: a meta-analysis. BMC Cancer. 2020;20(1):746.
3) Kotsopoulos J, Librach CL, Lubinski J, Gronwald J, Kim-Sing C, Ghadirian P, et al. Infertility, treatment of infertility, and the risk of breast cancer among women with BRCA1 and BRCA2 mutations: a case-control study. Cancer Causes Control. 2008;19(10):1111-9.
4) iu X, Yue J, Pervaiz R, Zhang H, Wang L. Association between fertility treatments and breast cancer risk in women with a family history or BRCA mutations: a systematic review and meta-analysis. Front Endocrinol (Lausanne). 2022;13:986477.