こんにちは、伏見IVF乳腺うえだクリニック、院長の上田匡です。
今回は、不妊治療で使用される「排卵誘発剤」について、できるだけわかりやすく解説します。
不妊治療をしていると、
「排卵誘発剤って、何のために使うの?」
「クロミッドとレトロゾールは何が違うの?」
「注射の薬は、飲み薬より強いの?」
「たくさん卵胞が育ったほうが妊娠しやすいの?」
など、薬について疑問に思うことがあるのではないでしょうか。
排卵誘発剤には、内服薬と注射薬があり、それぞれ作用する場所や使う目的が異なります。
一般不妊治療では内服薬が使われることが多く、生殖補助医療(体外受精など)では注射薬が使われることが多いですが、「注射薬のほうが単純に強い薬」というわけではありません。
患者さんの卵巣の状態やその方の体質、治療の目的に合わせて、適切な薬剤と投与量を選ぶことが大切です。
目次|この記事では、以下の内容について解説します。
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目次
- 1.排卵はどのようにコントロールされている?
- 2.排卵誘発剤(内服薬)
① クロミフェンクエン酸塩(クロミッド)
② レトロゾール(フェマーラ)
③ シクロフェニル(セキソビット) - 3.排卵誘発剤(注射薬)
① hMG製剤
② 精製FSH製剤
③ 遺伝子組換えFSH製剤 - 4.トリガー製剤
① hCG製剤
② 遺伝子組換えhCG製剤 - 5.さいごに
では、そもそもこれらの薬は、どのようにして卵胞を育てているのでしょうか。
ここから少しだけ、排卵の仕組みについて説明します。
(なお、排卵後の妊娠の仕組みについては詳しくこちらで説明しています。→妊娠のしくみ)
1.排卵はどのようにコントロールされている?
卵胞発育~排卵時におこるホルモンの作用を端的にまとめると、以下になります。
- エストロゲン(E2)が低下すると、FSHが増えて卵胞の発育が始まる
- FSHの刺激で卵胞が育つと、卵胞からエストロゲン(E2)が分泌される
- 排卵前にE2が十分に高くなるとLHサージ(下記詳細あり)が起こり、卵子が成熟して排卵する
詳しく説明すると、以下です。かなり専門的な内容・説明になりますので、省略される方は下の▲まで飛んでください。
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まず、ヒトの卵胞発育~排卵のメカニズムは、視床下部―下垂体―卵巣からでるホルモンにより精密にコントロールされています(図1)。
基本的なロジックは、視床下部からGnRH(Gonadotropin-releasing hormone;FSHとLHをリリースするホルモンです)が産生されると、
下流の下垂体からFSH(Follicle-stimulating hormone;卵胞を刺激し大きくするホルモンです)とLH(Luteinizing hormone;黄体化を促すホルモンです)の産生が増加し、
さらに下流で卵巣にある卵胞が発育し卵胞から産生されるエストロゲン(E2;女性ホルモン)が増加します。
全体のホルモンバランスはE2の増減によりコントロールされおり、
①E2が上昇⇒GnRHの産生低下⇒下流のFSH/LHも低下⇒結果的にE2が低下
②E2が低下⇒GnRHの産生上昇⇒下流のFSH/LHも上昇⇒結果的にE2が上昇
のような動きを基本とします。
一方で、排卵前に急激なE2上昇が生じた場合、GnRHがパルス状に分泌され、下垂体からLHが多量に放出され(LHサージ)、
これをトリガーとして卵子の成熟と排卵がおこります(図2)。このようなメカニズムで排卵がコントロールされています。
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冒頭でもお伝えしましたが、排卵誘発剤は内服薬と注射薬があり、一般不妊治療では内服薬が用いられることが多く、生殖補助医療では注射薬が用いられることが多いです。
このうち、内服薬は「E2に拮抗する」ないし「E2を低下させる」ことで、下垂体からのFSH分泌を増やして、自身のホルモン産生で卵胞を育てます。
一方、注射薬はFSHそのものを投与することで、卵巣を直接刺激して卵胞を育てます。
これらの薬剤は、複数の卵胞が発育する場合があり、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群が生じる場合があります。
そのため、薬剤の種類や投与量は、患者さんの卵巣の状態や治療の目的に応じて調整する必要があります。
また、LHの作用を代替して、卵子の最終成熟と排卵を促すトリガー製剤についてもまとめて解説します。
それでは、それぞれの薬剤についてみていきましょう。
2.排卵誘発剤(内服薬)
内服の排卵誘発剤には、クロミフェンクエン酸塩(クロミッド)、レトロゾール(フェマーラ)、シクロフェニル(セキソビット)の3剤があり、それぞれについて解説します。
①クロミフェンクエン酸塩(クロミッド)
クロミフェンは選択的エストロゲン受容体モジュレーター(Selective estrogen receptor modulator : SERM)の1つで、
視床下部のエストロゲン受容体(Estrogen receptor : ER)に作用しエストロゲンに拮抗する(抗エストロゲン作用)ことでFSH分泌が増加します。
クロミフェンは73%と非常に高い排卵成功率を認めますが、同論文での妊娠率は36%にとどまります。(1)。
この差は、クロミフェンの子宮内膜や子宮頸管粘液に対する抗エストロゲン作用による影響と考えられています。
クロミフェンは、月経3〜5日目から1日1錠(50mg)を5日間連続で服用します。効果がない場合は、1日2錠(100mg)を5日間まで増量可能です。
卵胞径は12mmを超えたあたりから、1日1.5~2mmずつ大きくなり、最も妊娠率が高い卵胞径は23~28mmとされています。
ただし、これはあくまで目安であり、実際の排卵させるタイミングは卵胞径だけでなく、ホルモン値や子宮内膜の状態などを総合的に判断して決定します。
問題点は、多胎妊娠のリスクがあること(5~6%、※海外のデータです!)(2)、卵巣過剰刺激症候群を生じる可能性があること、
使用中に子宮内膜が薄くなる場合があること、霧視などの視覚症状が副作用としてあること、半減期が120時間と非常に長いことなどが挙げられます。
私個人の使用感を述べると、3剤で一番複数の卵胞が発育しやすく(多胎・卵巣過剰刺激症候群のリスク)、卵胞が大きくなるまでトリガーを待つ必要がある、
内膜が薄くなると言われているが卵胞が大きくなるまで待つと割と内膜も厚くなる、そんな感じです。
②レトロゾール(フェマーラ)
レトロゾールはアロマターゼ阻害薬(Aromatase Inhibitor : AI)の1つで、もともとは閉経後乳癌の術後治療薬として使用されてきました。
不妊治療においては、アロマターゼという酵素の働きを抑えることで血中エストロゲン(E2)の濃度を低下させ、それによりFSH分泌が増加し、卵胞を発育させます。
特に多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)において治療効果が高く、
クロミフェンと直接比較した論文では、排卵達成率はレトロゾール群で88.5%、クロミフェン群は76.6%、妊娠率はそれぞれ31.3%、21.5%で、
生児獲得率においてもレトロゾール群で優位に高率であったと報告されています(3)。
現在では、PCOSに対する排卵誘発では、レトロゾールが第一選択薬とされています。
原因不明不妊症においては、レトロゾールはクロミフェンと同等の成績と報告があります(4)。
レトロゾールは、月経3〜5日目から1日1錠(2.5mg)を5日間連続で服用します。効果がない場合は、1日2錠(5mg)を5日間まで増量可能です。
問題点は、多胎妊娠のリスクがあること、卵巣過剰刺激症候群を生じる可能性があること、少ないながら疲れやめまい、眠気などの副作用があることなどが挙げられます。
私個人の使用感を述べると、複数卵発育する割合がクロミフェンより低い、大きな副作用がそこまでない、
たまに採卵周期で使用している際にE2が低すぎると誤認してしまう、使いやすくつい使ってしまう、そんな感じです。
③シクロフェニル(セキソビット)
シクロフェニルは選択的エストロゲン受容体モジュレーター(Selective estrogen receptor modulator : SERM)の1つで、
エストロゲン受容体に対してアゴニスト(作動薬)およびアンタゴニスト(拮抗薬)としての混合作用を示します。
つまり、抗エストロゲン作用に加えて、弱いエストロゲン作用を持ちます。このため、クロミフェンに比べて副作用が弱いと言われています。
シクロフェニルは、月経3〜5日目から1日4錠(400mg)を5~10日間連続で服用します。効果がない場合は、1日6錠(600mg)まで増量可能です。
問題点は、PTP包装がデュファストンに似ており渡し間違える可能性があること、少ないながら下腹部痛、不正出血、発疹、吐き気などの副作用があることなどが挙げられます。
また、卵胞を大きくする作用はクロミフェン・レトロゾールに比べて弱いです。
私個人の使用感を述べると、効果も弱ければ副作用も弱いため、多胎や卵巣過剰刺激症候群も起こりにくいので、ある意味で使いやすい薬剤と言えます。
3.排卵誘発剤(注射薬)
注射薬の排卵誘発剤には、hMG製剤(HMG「あすか」、HMG「F」)、精製FSH製剤(フォリルモンP)、遺伝子組換えFSH製剤(ゴナールエフ、フォリスチム、レコベル)があります。
注射薬は内服薬にくらべて卵胞を発育させる効果が強く、原因不明不妊症における人工授精では内服薬より出生率が高く妊娠までの期間が短いとされています(4)。
一方で、品胎以上の多胎率の増加やキャンセル率が高いことも知られています。
基本的に一般不妊治療では、1個の卵胞を育てる「単一卵胞発育」を目指したいので、内服薬より頻回の超音波での卵胞計測と慎重な薬剤の増量が求められます。
①hMG製剤(HMG「あすか」、HMG「F」)
hMG製剤は、更年期女性の尿由来の成分から精製した薬剤になり、FSHの成分とLHの成分を含有しています。
特に、カルマン症候群のように中枢性にFSHやLHが分泌されない疾患で、FSHに加えてLHも投与したい場合に良い適応となります。
hMG製剤と精製FSH製剤は、遺伝子組換えFSH製剤に比べて価格が安いため、自費の体外受精の際によく使われます。
一般不妊治療で使用する場合は、75~150単位を1回に注射し、生殖補助医療で使用される場合は150~450単位を状況に応じて使い分けます。
②精製FSH製剤(フォリルモンP)
精製FSH製剤も更年期女性の尿由来の成分から精製した薬剤になりますが、FSHの成分がほとんどでLHの成分をほぼ含みません(LHの割合に規定あり)。
そのため、遺伝子組換えFSH製剤とほぼ同様に使用できますが、こちらはアンプルのためシリンジ(注射器)に注射用水を吸って、粉末を溶解して使用する必要があります。
③遺伝子組換えFSH製剤(ゴナールエフ、フォリスチム、レコベル)
いずれもペン型になり、純粋にFSHのみの製剤となります。
一般不妊治療では、単一卵胞発育目的に低用量漸増療法で使用されることが多く、低用量(50~75単位)で開始し卵胞発育を観察しながらじっくり投与し続けます。
生殖補助医療で使用される場合は、150~300単位を状況に応じて使い分けます。
なお、レコベルは一般不妊治療に保険適応がありません。
4.トリガー製剤
トリガー製剤には、hCG製剤(HCG5000「F」)と遺伝子組換えhCG製剤(オビドレル)があります。
ここで、LHサージを起こす薬剤なのに、hCGを使用しているため意味がわからないと思いますので一旦解説します。
LH・FSH・hMG・hCGはいずれも、ゴナドトロピンと呼ばれるホルモンであり、FSHとhMG、LHとhCGはそれぞれ似た構造と薬効をもっています。
ですので、LHサージによって起こる卵子の成熟・排卵を促すために、LHと同様の作用をもつhCGが使われています。
①hCG製剤(HCG5000「F」)
これも尿由来の製剤になります。
LHサージに相当する作用により、卵胞内の卵母細胞は成熟し、投与からおよそ36~38時間で排卵するとされています。
一般不妊治療で使用される際には、人工授精の前日や当日に投与します。生殖補助医療で使用される場合は、採卵の36時間前に投与されることが多いです。
5000単位をまず使用し、反応が悪い場合に10000単位に増量します。
こちらはアンプルのためシリンジ(注射器)に注射用水を吸って、粉末を溶解して使用する必要があります。
②遺伝子組換えhCG製剤(オビドレル)
こちらはプレフィルドシリンジといって、薬剤が溶解された状態でシリンジにはいっており、そのまま使用可能です。
力価はhCG製剤の5000単位とほぼ同等ですが、シリンジに入って使いやすいこちらの製剤のほうが少し安価といった不思議な状況になっています。
5.さいごに
端的にお話するつもりでしたが、意外に長くなりました。
不妊治療は実際に受けている治療が複雑で、専門用語も多く、一般の方には非常に難解な治療だと思います。
さらに高額であるため、治療がうまくいかない時にはどうしても疑心暗鬼になってしまうことが多いです。
排卵誘発剤も、「強い薬を使えばよい」「たくさん卵胞が育てばよい」というわけではなく、その方の体質や卵巣の状態、治療の目的に合わせて、適切な薬剤と投与量を選ぶことが大切です。
このコラムが、皆さまの疑問を解決する一助になれば幸いです。
今回は排卵誘発剤そのものについて解説しましたが、実際の不妊治療では、
「いつから薬を使って、いつ超音波で卵胞を確認して、いつ排卵を促すのか」という治療のスケジュールも気になるところだと思います。
体外受精の排卵誘発の具体的なスケジュールについては、また別のコラムで詳しく解説したいと思います。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
伏見IVF乳腺うえだクリニック 院長 上田匡
参考文献
1. Homburg R. Oral agents for ovulation induction--clomiphene citrate versus aromatase inhibitors. Hum Fertil (Camb). 2008;11(1):17-22.
2. Moore V, Rumbold A, Fernandez R, McElroy H, Moore L, Giles L, et al. Dispensing of clomiphene citrate to treat infertility: medication supplied and population prevalence of assisted pregnancies and multiple births. Fertil Steril. 2022;117(1):202-12.
3. Legro RS, Brzyski RG, Diamond MP, Coutifaris C, Schlaff WD, Casson P, et al. Letrozole versus clomiphene for infertility in the polycystic ovary syndrome. N Engl J Med. 2014;371(2):119-29.
4. Wessel JA, Danhof NA, van Eekelen R, Diamond MP, Legro RS, Peeraer K, et al. Ovarian stimulation strategies for intrauterine insemination in couples with unexplained infertility: a systematic review and individual participant data meta-analysis. Hum Reprod Update. 2022;28(5):733-46.

